和田小松原(わだのこまつばら) 東は兵庫の町端より、西は東尻池村まで一面の松原にして、南は蒼海渺茫と日を浴し、雲を洗ふがごとし。漁舟ちひさく、鶚は魚を捕つて空に翔り、芦間に鳴く千鳥寒く、名にしおふ淡路島山は相対して、人家幽かに見ゆるなり。紀の海・和泉の浦々も霞の中より眸に遮る。
北は巒簡峨々として、摩耶・神撫の峠につづき、布引の滝・生田杜あるは天王峠・住蓮坂・鵯越など、霧にかくれ雪に白く、風光斜ならず。往来の旅客もしばしはここに憩ふて、山水の清睴を賞せずといふ事なし。

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