須磨浦(すまのうら) 古詠多し。むかしはこの浦に塩屋ありしが、今は海遠浅になりて塩竈絶えたり。
近年、風月庵これを再び興さんと計ひしかども、その事ならず。
『拾遺』 白波はたてと衣にかさならず赤石も須磨もおのが浦々 人 丸
『古今』 すまのあまの塩やく煙風をいたみ思はぬ方にたな引にけり 読人しらず
同 須磨の海士の塩やき衣をさをあらみま達にあれや君がきませぬ 同
『詞花』 すまの浦に焼くしほ竃の煙こそ春にしられぬ霞なりけれ 俊 頼
『千載』 五月雨はたくもの煙うちしめり塩たれまさる須磨の浦人 俊 成
『新古』 すまのあまの袖ぞ吹きこす塩風のなるとはすれど手にもたまらず 定 家
同 なれ行はうきよなれはや須磨の海士の汐やき衣ま遠なるらん 女御撒子女王
同 すまの浦のなぎたる朝はめもはるに霞にまがふあまの釣舟 藤原孝
『続古』 すまのあまの浦こぐ舟のかぢを絶えよるべなき身ぞ悲しかりける 小野小町