HOME > 巻之七 菟原郡


無仁蜜柑樹(みなしみかんのき) 同郡、榛原村若林氏の家園にあり。この木亘二間半ばかりにして、枝薬四方へ蓋覆せり。秋の末に実のなるといへども、中に仁なし。これ、奇なるものの一種なり。もと、この地は荒熊武庫守興定といふ者の居城なり。前は海、後は山にして、要害第一の城域なり。数代、ここに居住しけるが、建武の城主は討死し、その後荒廃しける所、村上源氏の末流、若林隼人佑勝岡、有縁に尋てここに来たり、城主の女子一人、孤となりしを妻とし、家名相続す。これ今の若林氏なり。敷地の封境広くして、渓水を通して水碓を設け、灯油を製して諸国に商ふ。      








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