禁蚊家(かをいましむるいへ) 東畑村の村甲の居宅なり。伝へ云ふ、弘法大師諸国巡行旦過したまふ。折しも水無月の炎暑に一夜を明かさせくれよと所々たのみたまへども借さざりけり。この畑村の者痛はりて一夜の宿を申しければ、弘法大師大いに悦びたまひ、ここに泊まりたまふ。されども蚊屋もなくて主もきのどくに思ひけるを、大師悟りたまひ呪文を唱へ永く蚊を封じたまふ。今もこの家は暑熱といへども蚊帳を垂れず。しかも臥す事安し。隣家は蚊の群がる事他に同じ。その霊妙なる事後世に至りてもこれを奇とすべし。
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