○住吉の忘草といふは『古今』の伝授なくては容易く人のしるべきにあらず。歌道の家によりて明らむべし。近年の書に俗説を双ペ書けり。取るにたらず。
『古今』 道しらばつみにもゆかむ住のえの岸におふてふ恋わすれぐさ つらゆき
同 住よしとあまは告ぐともながゐすな人忘草生ふといふなり 忠 岑
『後拾遺』 忘草摘みて柏らん住吉のきしかたのよは思ひ的もなし 平棟仲
紀のよしさだ住吉の浦に行きて忘草を尋ねけれは美女にあへり。来会を契りて別れけるに、後の日ゆきけるにかの女来らず。
つれづれとしてある所に虹の浜をあゆみゆく跡を見れば歌なり、
住よしの浜の見るめもわすれねばかりにも人にまたとはれけり